最近の研究から

八木研究室で行われた研究の中から、共同利用による研究も含め、いくつかの内容を簡単にまとめて紹介します。

ホーランダイトの高圧相転移と状態方程式

KAlSi3O8(ホーランダイト)は大陸地殻を構成する主要な鉱物のひとつで、また地球深部の熱源となるカリウム(K40)のホスト鉱物でもある。 Kのような大きなイオンを安定に取り込める鉱物は数少なく、その超高圧下のふるまいは、沈み込むスラブの運動や地球深部の熱収支を考察する上で重要である。従来ホーランダイト構造のKAlSi3O8は約10GPaで生成すると、少なくとも90GPaまでは安定であると報告されていたが、当研究室でHeを圧媒体とした高い静水圧下でのX線回折実験を行ったところ、下図に示すように室温約28GPaで明瞭な相転移を起こすことが明らかにされた。この転移は2次転移的で、格子が歪むことにより、その結晶系が正方晶系から単斜晶系になる。この研究により、下部マントル条件下での状態方程式も精密に測定された。



FeOの超高圧相転移

 FeOは下部マントルやコアにおける鉄とケイ酸塩の反応や物性を考える上で重要となる物質である。 FeOは1気圧下では岩塩構造を持つが、高圧下では菱面体構造やNiAs構造に転移することが明らかにされているが、 それぞれの安定領域などはまだ研究者によって大きな食い違いが見られる。 本研究では、筑波のフォトンファクトリーでのレーザー加熱X線その場観察実験や、回収試料の電子顕微鏡観察を行って、 化学組成や温度、圧力が結晶構造に及ぼす影響を明らかにしつつある。



メタンハイドレートの高圧相転移

 筑波大平井研と共同で、地球科学的にも物質科学的にも最近注目を集めているメタンハイドレートの超高圧下の振る舞いを、 X線やラマン散乱を用いて研究している。メタンハイドレートはH2Oのかご状結晶(ケージと呼ばれる)の中にメタン分子が 取り込まれた構造を持ち、天然には日本近海の深海底や外惑星の衛星に存在している。その安定性や相転移は、 メタンハイドレートを新たなエネルギー資源として利用する場合や、地球環境問題を考える場合に重要となるばかりでなく、 フラーレン(C60)と同じようなかご状物質の物性を考える上でも、興味深いものである。従来行われてきた高圧下の研究は ごく限られたものであったが、本研究では約80GPaまでの領域でX線回折実験により、ホスト分子の大きさによる系統的振る 舞いを明らかにすると共に、水素結合の対称化など様々な様子を明らかにしつつある。



充填スクッテルダイト構造を持つ新超伝導物質の高圧合成

 室蘭工科大学城谷研究室との共同研究で、ここ10年ほどの間に、10種類以上の新しい超伝導体が約4GPaの高圧下で 合成された。超高圧高温下で合成することにより、著しく蒸気圧の異なる元素の化合物を安定に合成したり、 物性測定に適した不純物の少ないよく焼結された試料を合成できる。またイオンの圧縮率の違いによって、 1気圧下とは異なる結晶構造になることを利用して、新物質を作り出すこともできる。これらの特徴を生かして、 様々なリン化物、砒化物をはじめ、充填スクッテルダイト構造を持つ新物質の合成などが行われている。

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