主要な研究設備



 八木研究室では、さまざまな装置を開発・改良して超高圧実験を行っています。 現在使われている主要な装置を、 マルチアンビル型高温高圧発生装置 ダイヤモンドアンビル装置(DAC) DAC用周辺装置 微細加工装置 試料準備・解析装置、に分けて紹介します。

また物性研に設置されているもの以外に、筑波のフォトンファクトリーや西播磨のSPring-8にある下記の装置も、八木研究室で設計・製作されたものです。

PF (BL13A): レーザー加熱と放射光を組み合わせた超高圧高温X線回折実験装置
 1995年-1999年に八木が研究代表者として行なった文部省科学研究費「特別推進研究」で設計、製作された、国内では初のレーザー加熱DACと放射光を組み合わせたシステムで、現在は物構研に移管され、広く一般に開放されている。

SPring-8 (BL10XU): レーザー加熱装置
 SPring-8からの依頼により、PFで開発した上記の装置をもとに八木、近藤が中心となって1998年に設計製作したレーザー加熱システム。SPring-8のより高輝度、低発散のX線を生かして、より極限条件下での実験が可能になっている。この装置はその後東工大広瀬グループやIFREEの佐多等により大幅に改良が加えられ、現在広く一般に使われている。

PF (BL14C): MAX-III高温高圧実験装置
 柏移転時における物性研究所の設備更新費の一部で、八木、船守、亀掛川等が中心となって設計・製作しBL14に設置された、出力500トンのキュービックプレスとエネルギー分散型X線回折装置を組み合わせたシステム。 現在は広く全国の放射光ユーザーに開放され、焼結ダイヤモンドアンビルと組み合わせて精密な高温高圧実験や、計測系が高速なことを利用して高圧下の融体の測定に威力を発揮している。




マルチアンビル型高温高圧発生装置


 大型の油圧プレスとタングステンカーバイト製または焼結ダイヤモンド製アンビルを組み合わせた超高圧高温発生装置です。試料室の容積が大きく、精密な温度制御ができるという特色があります。プレスは現在次の4台があります。

1. 東芝若槻型キュービックプレス
(石川島播磨製、700トンプレス)
1段式、6 GPaまでの物質合成
2. DIA型キュービックプレス
(神戸製鋼製、250トンプレス)
1段式、10 GPaまでの物性測定用


3. IROHAプレス(トライエンジニアリング製、700トンプレス):Kawai型(111) 押し2段式。24mm炭化タングステンアンビルと組み合わせ、25 GPa 程度までの高温高圧実験用 4. CAPRICONプレス(トライエンジニアリング製、500トンプレス) :DIA型2段式、10mm焼結ダイヤと組み合わせ30 GPa程度までの高温高圧実験用

また、CAPRICONプレスと焼結ダイヤモンドアンビル製対向アンビルを組み合わせ、30 GPa 以上の圧力領域を目指した新しい装置の開発も行っています。



ダイヤモンドアンビル型超高圧装置
(Diamond Anvil Cell: DAC)


 ダイヤモンドアンビル装置は、宝石用のダイヤモンドを2個対向させ、その間に試料を挟んで加圧するもので、小型ながら100 GPa(約100万気圧)以上の超高圧を発生することができます。八木研究室では主としてカーネギー研究所のMao-Bell型レバー式装置を独自に使いやすく改良した装置を使っていますが、それ以外にも、実験の目的に応じて様々な形の装置を使ったり、新たに開発しています。

側面からX線を入射するDAC 後ろが標準的なレバー式DAC、手前が3種類のクランプ式DAC




DAC用周辺装置


 ダイヤモンドアンビル装置を使いこなすには、ガスケットの準備や加熱、試料の準備等にさまざまな周辺装置が必要となります。八木研究室では独自に開発、改良した、さまざまな装置を使って研究を進めています。

レーザー加熱実験装置
 ダイヤモンドアンビル装置中の試料を数千℃まで加熱し、その温度を測定するもので、加熱には出力100WのYAGレーザーと200WのCO2レーザーを試料に応じて使い分けています。試料からの熱輻射スペクトルを測定することにより、試料の温度をリアルタイムで測定することができます。また緑色の半導体レーザー光を試料室に照射し、圧力マーカー(ルビー等)から蛍光を励起させ、そのスペクトルを測定して加熱中の試料室内の圧力を求めることもできます。




DAC用周辺装置 II


高圧ガス試料充填装置
(加圧制御部) (試料充填用容器)

 1気圧下でガス状の物質を、室温で約2000気圧まで圧縮して密度を上げ、ダイヤモンドアンビルの試料室に充填することができます。この装置を使って今まで10数年間に、水素、ヘリウム、アルゴン、メタン、窒素などを、試料または圧力媒体として試料室に詰めてきました。超高圧下でも高い静水圧性を保つヘリウムや、レーザー加熱でも試料と反応しないアルゴンを不活性な圧媒体として用いたり、水素化物や窒化物、メタンハイドレードの合成実験などに広く使われています。






高圧X線回折実験装置
 出力12 KWのMo回転対陰極X線源とイメージングプレート検出器を組み合わせ、ダイヤモンドアンビル中の試料の高圧下における粉末X線写真を撮ることができます。最近は最終的なデータを筑波のフォトンファクトリーや西播磨のSPring-8などの放射光実験施設で取ることが多いのですが、この装置で予備的な解析をすることにより、より効果的に研究を進めることができます。




顕微ラマン分光装置
 出力2Wの水冷アルゴンレーザーからの光を試料に照射し、ラマン散乱の測定を行うことができます。ダイヤモンド中の試料も高精度で測定するために、ダイヤによる収差を除く平行平板補正を行い、かつ作動距離が長い特殊な対物レンズを使用しています。またダイヤによる反射や蛍光を低減させるため、レーザー光をアンビルに対して斜めに入射することもできます。




微細加工装置


超高圧下での新しい実験を開拓していくには、より微細で精密な加工を行うことが不可欠です。そのために、八木研ではこの面での技術開発にも力を入れており、さまざまな工夫を加えた次のような装置が威力を発揮しています。

YAGレーザー加工機
 波長1.06ミクロンのYAGレーザー光をQスイッチでパルス状にして試料に照射することにより、レニウムやダイヤモンド、セラミックスなど様々なものをミクロン精度で切断したり、穴を開けたり、溶接したりすることができます。ガスケット穴の加工や、ダイヤモンドの切断などさまざまな目的に広く使われています。




エキシマレーザー加工機
 波長0.248ミクロンのエキシマレーザー光を試料に照射し、マスクパターンを1/30に縮小して微細加工を行うことができます。照射するパルス数によって、加工の深さを調節することができ、任意の形状と深さを持ったパターンを彫り込むことができます。



FIB(Focused Ion Beam) 装置
 電子顕微鏡室に設置されているFIB(Focused Ion Beam) 装置を用いて、電子顕微鏡レベルの微細加工を行う研究も進められています。


ダイヤモンドアンビル表面に彫り込んだくぼみ。この中にリチウムを閉じこめて加圧し、約30GPaでリチウムが転移温度20Kの超伝導体となることを見いだした。 (阪大清水研共同利用研究:Shimizu et al., Nature, 419,597, 2002)




試料準備・解析装置


微小領域X線回折装置
 出力9KWのCr回転対陰極X線源と位置敏感型一次元検出器を組み合わせ、直径100ミクロン弱の微小領域の粉末X線回折を行うことができます。低エネルギーのCrをX線源として用いているため、試料表面付近だけの情報を得ることができ、SEMで観察する試料の各部分に対応した粉末X線回折を行うことができます。


グローブボックス
 酸素や水分で変質する試料をダイヤモンドアンビルに詰めるためのもので、ボックス内は高純度アルゴンで満たされ、水分や酸素が1ppm未満程度に保たれるように循環精製されています。また内部にはデジタルマイクロスコープが設置され、ダイヤモンドアンビルの試料室を拡大してモニター画面上で見ることができます。


その他
 以上の各装置のほか、焼結ダイヤモンドを研磨する放電加工機や、ダイヤモンドアンビルを研磨する宝石研磨機、マルチアンビル装置のパーツを加工するコンピューター駆動のモデリングマシンなど、各種の特殊な加工装置も設置されています。